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2024-05-24

緊急レポート|フィリピンのストリートチルドレンをZEROに:2023年度活動報告―SDGs『誰ひとり取り残さない』実現に向けてー

現在、アジア・コミュニティ・センター21(以下ACC21)アジア宗教者平和会議東京(ACRP 東京)は、フィリピンのストリートチルドレンをZEROにするためのキャンペーンの一環として、クラウドファンディングに取り組んでいます(期間:2024年4月12日~5月31日、詳細:     https://acc21.org/sczero2024/ )

5月21日の夜、アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)の辻本職員とアイキャンの福田事務局長が登壇し、2023年度の「フィリピンのストリートチルドレンZEROキャンペーン」についての活動報告会が行われました。

この記事は、2024年5月21日にオンラインで開催された「フィリピンのストリートチルドレンをZEROに:2023年度活動報告ーSDGs『誰ひとり取り残さない』実現に向けてーのレポート記事です。アーカイブ動画も合わせてご覧ください。

「フィリピンのストリートチルドレンZEROキャンペーン」とは

フィリピンには約37万人の子どもたちが路上で暮らしていると言われています。

この、路上で暮らす子どもたちはストリートチルドレンと呼ばれますが、その中にも路上で家族とともに寝泊まりする子ども達、スラムなどに家がありながら一日のほとんどの時間を路上で物乞いなどをしてお金を稼ぐ子ども達、親から虐待を受け、親から離れて路上で暮らす子ども達など様々な生活の実態があります。

「フィリピンのストリートチルドレンZEROキャンペーン」は、SDGsの達成年・2030年までにフィリピンのストリートチルドレンをZEROにすることを目標にしたもので、次の3つの活動に取り組んでいます。

2023年度は本キャンペーン初めてのクラウドファンディングに取り組み、2023年4月12日~5月31日までの間にのべ110の個人・団体から、総額225万6千円のご寄付(当時の目標額200万円)が寄せられました。

いただいたご寄付は、次の通り配分し、活用いたしました。

2023年度のキャンペーンに参加していただいた皆さま、ありがとうございました。


今回のイベントでは、ストリートチルドレンのための現地の活動を実施した2団体から、それぞれの活動について報告がありました。

まず、認定NPO法人アイキャンの福田事務局長からのご報告を紹介します。

路上の子どもたちの声を社会に

改めまして、昨年度にご寄付などの形でご協力してくださった皆さま、ありがとうございました。本日は、昨年いただいたご寄付をどのように活用しその活動によってどのような変化が見られたのかについてご報告をさせていただきます。

まず、今回ご寄付を活用させていただいた事業が始まったきっかけについてお話しします。

フィリピンには、37万人ものストリートチルドレンがいるといわれているように、私たちが当たり前だと思っていることが当たり前ではない生活をしている子どもたちが沢山います。中には、周りの大人たちから「路上の子どもが夢を持っても無駄だ」と言われ、自分に自信を失い、夢を持つことができなくなっている子どもも沢山います。そんな中で私たちは、路上の子どもたちの声を大切にしています。

例えば、出会った子どもの中には、学校に通うために必要な手続きをしたくても母親が仕事で忙しく、手伝ってくれないと話してくれた子がいました。彼は、タガログ語で「Bahala na si Batman」、つまり自分にはもう何もできないから、バットマン(神様など、超人的な力を持っただれか)がどうにかしてくれるのを待つしかないと話していました。

この例からもわかるように、フィリピンの路上で暮らす子どもには自分に何かができると信じることができずに自分自身の人生に制限をかけてしまう子どもが多くいます。

こちらの貧富の差を表すジニ係数を見てもわかるように、フィリピンは経済成長が著しい一方で所得格差が非常に大きな社会です。

路上では、どんなに頑張っても1日に100ペソ(約200円)ほどしか稼ぐことができません。そのため、学校に通いたくても通うことができず、盗みや麻薬などに手を染めてしまう子どもも多くいます。幼い子どもが赤ちゃん(弟や妹)を育て、明日のミルクをどのように手に入れようか考えていたり、宿題をする明かりを求めてコンビニエンスストアに通う子どもがいたりします。

このような状況を変えたい、子どもたちの状況を社会に届けたいと思い、始まったのがアイキャンの活動です。

主な事業内容は、大きく2つあります。

①スポーツを通したライフスキル研修
②若者リーダー育成(4地域)

「スポーツを通したライフスキル研修」では、路上で生活する子ども達の「経験と記憶を取り戻す」ことを目的としています。子どもたちが、何かを練習してできるようになる達成感、ルールを作ったり守ったりすること、仲間を思いやって行動することなどを経験することで社会に出て生きていく力、ライフスキルを身に付けることができます。

「若者リーダー育成」では、元ストリートチルドレンの若者たちで構成された協同組合カリエと共にリーダーシップ研修、ピア教育などを行いました。

今後に向けて、アイキャンは2023年から3年計画を掲げて活動をしています。1年目の2023年は基盤構築期、2024年は拡大展開準備期、2025年は拡大展開期として、協同組合カリエと共に、引き続きストリートチルドレンをZEROにするために事業に取り組んでいきます。


続いて、認定NPO法人アジア・コミュニティ・センター21の辻本職員からの報告をご紹介します。

路上の若者たちが自信を持てるようサポート

ACC21では、フィリピンでの活動として主に社会全体への働きかけ(「フィリピンのストリートチルドレンZEROキャンペーン」)と、一人ひとりの若者に対しての支援(「Project Bamboo:路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」)に取り組んでいます。そのなかで、後者の「Project Bamboo」に、昨年度のご寄付を活用させていただきました。

「Project Bamboo」は、マニラの路上で暮らす若者たち(16-24歳)にライフスキルや職業技術を学ぶ機会を提供し、自立を支援する活動で、2018年7月にスタートしました。

どうして子どもではなく若者を支援するのかというと、フィリピンでは路上で十分な教育を受けずに生活能力を得ずに育った子どもたちがそのまま大人になり、仕事に就かずに結果その子どもが路上で暮らすことになる、という悪循環が生まれているためです。路上の子どもが大人になる段階で職業技術や知識を学ぶ場を提供すれば、仕事に就き、路上から抜け出すことができるのではないかと考え、この活動が始まりました。

ACC21は、現地に事務所は持たずにチャイルドホープという現地団体と協働し、力を合わせて活動に取り組んでいます。

若者の自立を支えるため、仕事に必要なスキルを学ぶ前の段階として、様々な課題に対処する方法やお金の使い方や、壁にぶち当たった時に努力をして乗り越える達成感を学び、まずは若者が自分に自信をもって生きていくための心構えを持てるように支援しています。

その後、就職や起業に必要な職業スキルを身に付け、就職・起業できるようにサポートしています。

最後にこの事業を通して、若者たちにどんな変化が見られたのか紹介します。

事業の担当者として、研修に参加する若者たちと話していると感じるのは、一番の変化は若者たちが「努力すればより良い生活を手に入れることができる」と自分に自信を持てるようになったことなのではないかと思います。

今後は、さらにProject Bambooの事業をより若者の生活を改善するために役立つように改善していきます。


続いてのトークセッションでは、大学生インターンの石山が登壇者の二人に質問を投げかけました。

活動をする上でのモチベーション、今後の課題とは

石山:まず、福田さんに質問です。この一年間活動をしてきて、一番子どもの変化を感じたエピソードはありますか?

福田:スポーツを通したライフスキル研修などで、7名の子どもたちが学校に通うようになりました。子どもたちにインタビューをしたところ、「カリエ(元ストリートチルドレンの若者で構成された協同組合)で活動するお兄さんお姉さんに出会って、学校に通いたいと思った」「カリエのお兄さんお姉さんみたいになりたい」という声が聞かれます。子どもたちがロールモデルを見つけることで、「路上生活から抜け出すことは可能だ」と知り、希望を持てるようになったことが一番大きい変化だったと思います。

石山:次に、辻本さんに質問です。ACC21は、現地団体とパートナーとして活動をしていると思いますがその中で特に感じる難しさなどがあれば教えていただきたいです。

辻本:やはり、1番の難しさは現地団体と物理的に距離が離れていることだと思います。しかし、コロナ禍にSNSやオンラインミーティングの普及が進んだことで、現在は月1回オンラインで定例会合をもつなど円滑にコミュニケーションを取れています。何より、現地の若者たちはパートナー団体のチャイルドホープを信用して参加してくれていますので、このような団体と共に活動できる事は心強く、メリットが大きいと感じています。

石山:福田さんに質問です。支援活動を続ける中で、モチベーションになっていることはなんですか。

福田:現地で20代前半の若者たちが家族を支え、さらに路上で暮らす子どもたちのための活動も行っているところを見ると自分も頑張ろうと思えます。また、日本でも周りの方々から応援メッセージを受け取るなど、人の温かさに触れると「大変でも頑張ろう」と思うことができます。

石山:辻本さんに、同じ質問をしたいと思います。活動する中でのモチベーションについて教えてください。

辻本:活動して思うのは、生まれる場所が違っていても子どもたちは同じであるということです。以前出張でフィリピンに行ったとき、自分の子どもと同じくらいの年(当時2~3歳)の路上の子どもを見ると、葉っぱをハサミで切ったりスリッパを手にはいて遊んだりと、自分の子どもとちょうど同じような遊びをしていました。しかし、この子どもたちが得られる教育や衣食住の機会は、日本の子どもたちと全く違います。そのことを考えたときに、生まれた場所が違うだけで選択肢が狭められてしまう不条理を感じ、この状況を変えたいと感じました。また、活動を通じて出会う路上で育った若者たちが奮闘する姿を見る事や、寄付をしてくださる方々のパワーを感じることもモチベーションに繋がっています。

石山:最後の質問です。2023年度の活動を通して見えてきた今後の課題について聞かせてください。

福田:課題が大きく2つあると思っています。1つ目は、様々なNGOなどの団体の連携です。連携が大切だということはよく聞くと思いますが、実際に現場で活動をしていて連携を感じることはあまりありません。複数団体で連携をしてこそ可能になる支援があると思うので、今回アイキャンとACC21が連携をしたように今後連携の輪を広めていきたいと考えています。2つ目は、フィリピンの政府が何もしてくれないという話があると思いますが、私はそこを諦めたくないと考えています。やはり、政府にしかできないことがあるため私たちのような団体が路上の子どもたちの声を大きくして政府に届ける活動をしていきたいと考えています。

辻本:Project Bambooの事業では、1人でも多くの若者が自立できるようになるよう、活動の改善を続けていきたいと考えています。また、起業を目指す若者たちがグループを作り共同で学び合ったり、共同ビジネスを作っていくなど、路上で育った若者たちが主体的に取り組んでいくための活動を支援していくことにも力を入れていく予定です。

事業以外の部分では、NGOが、日本と現地でも、また日本の中でも連携をして声を大きくして現地の活動をより良くしていく、また現地の政府とも連携を取りながら状況を改善していくための活動をしていきたいと考えています。また、フィリピンのストリートチルドレンの状況をよく知らない方々にも情報を広める活動も必要だと思います。


最後に、質疑応答の時間を設けました。多くの参加者の方々が積極的に質問をしてくださった中から、いくつかのやり取りを紹介します。

真の「自立」とは何か、フィリピンと日本の関係とは

質問者:お話の中で自立という言葉がありましたが、登壇者のお二人が社会的自立をどのようにとらえているのかお聞きしたいです。

福田:東京大学の熊谷先生が提唱している自立の概念に「自立とは依存先が多い状態のこと」というものがあります。つまり、自立とは一人で何でもできるという個人のレベルではなく、社会のレベルで見た時に頼ることができるサポートがある状態であると思います。

辻本:ACC21の事業としては、経済的な自立という部分を目標にして支援をしていますが、単に仕事ができたり起業ができるようになるだけではなく、一番大事なのは、「チャレンジや努力をすることで何かを達成することができる」と若者自身が実感することであると考えています。

質問2:フィリピンのストリートチルドレンを支援する中で、日本にメリットはありますか?

辻本:私は、国際社会の一員としてこの問題に対処することに意味があると考えています。また、フィリピンと日本は違う国ではありますが、日本に30万人以上のフィリピン人が住んでいるようにつながりはあるので、助け合いという意味でも、フィリピンに厳しい現状があるのであれば無視はできないというのが感じていることです。

福田:路上の子どもたちに、将来の夢を聞くと船乗りになりたいという子どもが多いです。なぜ船乗りがいいのかというとお給料がいいからです。実は、世界にいる海運業に勤めてている人の4~5人に1人がフィリピン人です。フィリピンの人たちによって海運業は支えていて、私たちの日々の暮らしは彼らの助けなしでは成り立たないといのです。フィリピンというとバナナのイメージを持つ人が多いかもしれませんが、船乗りのイメージも広がってくれたら嬉しいです。日本人、フィリピン人など関係なく、皆助け合って成り立っている世界であるという視点から、誰かを助けることは重要なのではないかと思います。

最後に

本イベントのオープニングと最後にACC21の伊藤代表理事よりメッセージがありました。

フィリピンのマルクス現大統領の就任当時、インタビューで『ストリートチルドレンを一番気にかけている』と話し、涙を浮かべていたことがありました。その様子を見て、人は誰もが優しさを持っていると感じました。私は、自立とは他者に目を向けて、優しさを発揮できる状態であると思います。

連携という面では、日本では縦のつながりが十分ではありません。豊富な知見を持った、長年頑張ってきた人たちから若者たちが多くを学び、情報を共有していくことが大切なのではないかと思います。

ストリートチルドレンZEROキャンペーンへのご参加の方法

ぜひ、本レポートをお読みいただいた皆さまにも、「フィリピンの“ストリートチルドレンZEROキャンペーン」にご参加いただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

クラウドファンディングへのご寄付(5月31日まで、目標額250万円)